相続税調査の特徴とさまざまな手法 聴取調査の対処法
2 聴取調査の対処法
午前9時半~10時頃から調査が開始されることが多い。 税務職員調査の際には必ず身分証明書の提示が義務付けられているため、まず身分証明書を確認させてもらう。
(1)調査官の身分証明書の確認
身分証明書の確認理由は2つある。
① ニセ税務職員
税務調査を装って預金通帳の提示を求めたり、「税金を支払ってほしい」などと言って訪問する詐欺事件が多発しているため、身分証明書の提示を求めて調査官本人であることを確認する。 もし調査官かどうか疑問がある場合は、調査に入る前に、申告書を提出した税務署に必ず問合せを行うべきである。
②調査の目的の確認
調査官は税務調査を行う際には、身分証明書及び質問検査章を提示する。 質問検査章には調査すべき税目が記載されているため、 その記載内容により何の税金の調査なのか調査範囲を確認する。 相続の調査であるにもかかわらず、相続と何の関連もない法人の法人税調査をむやみに行うことはできないのである。
(2) 納税者(相続人)からの聞き取り事項
調査官は身分証明書を提示して身分確認をしてもらうと、世間話等をして納税者の気持ちをほぐし、話しやすい環境を作った上で、いよいよ本題に入ってくる。
調査官が質問してくる事項は、次に掲げるような一般的な事項と、前述した準備調査において抽出した問題点等についてとなるが、その質問の仕方や順序等は事案の内容に応じてそれぞれ違い、納税者が回答するとその回答についてさらに質問してくることもある。このとき納税者が最も注意しなければならないのは、次に掲げる点である。
① 曖昧な事項及び想像で即答しない。
(イ) 被相続人に関する事項
知らない事柄についての質問に、 相続人があせって「被相続人はこれこれ………であっただろう」などと想像で回答しないこと。相続の場合には、財産の管理運用をすべて被相続人が行っており、相続人は一切知らなかったということが多々あるが、調査担当者もわからない点については相続人に質問することになる。納税者が想像により誤った回答をすると、 その誤った事実関係が一人歩きし、調査が長期化したり、ひいては調査結果が大きく変わってしまうことにもなりかねない。 その場で確認できない事項については曖昧な回答はせず、 早急に事実確認をした上で、後日回答をするようにすべきである。
(口) 相続人(家族) に関する事項
家族名義の財産が被相続人の財産でないかどうかの確認をするのも相続税調査の大きな目的である。 財産移動が20年前、30年前であったとしても被相続人が管理運用していると実質的に相続財産とみなされ、課税漏れと判断されてしまう場合がある。 「この財産はいつ、どのように取得されましたか?」 などと20年前から所有しているものについて質問されたとしても、実際に覚えていない人が大半である。記憶が曖昧な場合には、「だいぶ以前のことなのでわかりません。 調べて後日回答します」 という回答が望ましいといえる。
調査官の家族名義財産の検討事項
○家族名義となっているが、 何らかの事情で家族の名義を借りたもの ではないか。 ○名義人は、その存在を知っているか。 ○その資産の取得資金源泉が、被相続人の所得ではないか。 ○贈与があったとすれば、贈与時期はいつか (贈与契約書の有無)。 ○贈与税の申告がされたものか。 ○その資産を誰が管理しているか。 ○その資産の運用益を収受しているのは誰か。 ○預金については、 誰が作成 (手続き) したか。 ○その印鑑は誰が管理しているか。 ○継続 書換の手続きは、 誰が行っているか。 ○手続きをした筆跡は、誰のものか。
調査官は、家族の居所 家族構成・職業・ 所得状況・年齢・不動産等を聴取調査の中で把握し、実質的な所有者が誰であるかを総合的に判定することになる。
② 余計なことは言わない
ベテランの調査官になると、 世間話をしているかたちをとりながら、要所要所を聞き出してくる。 優しそうで紳士的な調査官だからといって、ついつい気を許してしまい、 何でもかんでも話した後に、その内容から申告の漏れを発見し、厳しい追及が始まる例はよくある。
(3) 臨宅調査後の問合せ
臨宅調査終了後、「少しお時間をいただけますか? 確認したいことがあるのですが」といきなり調査官が電話を掛けてきたり、訪問したりすることがあるが、このような時にしどろもどろになり、つじつまが合わなかったり、整合性が取れないことを口走ってしまうことがある。調査はあくまで「任意」のため、丁重に 「事実関係を確認し、後日回答させてください」 「税理士に委任していますので、税理士から回答させていただきます」 と対応することが望ましい。
(4) 臨宅調査のまとめ
妻名義の別荘がある、 お祝いに上場株式を買ってあげた、 古い時期から贈与税の基礎控除の範囲内で財産をあげていたなど、何気なく家族に与えているものすべてに、それが20年前であろうと30年前であろうと被相続人の財産ではないか、と調査官が言ってくる場合がある。別荘はともかくとして、 通常はお祝いや記念的に贈与しているのも多いかと思われる。税務署側が更正決定 (注) できる期間 (除斥期間) は定められており、更正の場合、 法定申告期限の翌日から相続税は5年、 贈与税は6年、偽り不正の場合は7年、 決定の場合、 相続税は5年、 贈与税は6年、偽り不正の場合は7年と決められており、これを無視した税務調査はできない。しかし、実際には配偶者の金で支払われたものであっても、20年前のことは明確に覚えていなかったり、 被相続人が自分の預金と合わせて配偶者の分もサインしてしまう場合もあるため、 実際に自分の所有財産であれば動じることなく、 事実関係を要領よく説明することが大切である。「ここで受け入れないと調査が長引きますよ」 とか 「もっと細かく調査を見ていかなければなりませんよ」といった調査官の言葉に「ひどくならないうちに調査官の言い分を聞いてしまおう」「早く終わってほしい」と対応してしまいがちになるが、 どのような質問に対しても毅然とした態度で、最後まで誠実に事実関係を説明することが大切である。また、贈与税申告書控えや納付書控えについては、 証拠資料として受贈者が大切に保管しておくことが望ましい。
(注) 「更正」 は相続人が申告書を提出している場合の税務署長が行う処分をいい、 「決定」 は相続人が申告書を提出していない場合や期限後申告書を提出している場合の税務署長等が行う処分となる。